2010年12月8日水曜日

あの夏の夜のこと


あの頃の僕は、ただ、酔うためだけに気の合う友達らと夜な夜な酒を飲んでいた
二十歳にも満たない青春のど真ん中である

※未成年の飲酒は非合法である、まねをせぬように

そしてこれはあの頃の友達のひとり、S君の話である


祇園祭も終わり京都の街は少しずつ熱が冷めるように静かになっていく
よろしおすなあ
などと云うのはウソで、実際は、日ごとに増す蒸し暑さに若者のあのハツラツとした高揚感は蝕ばまれ、鬱屈したような気だるさを増長させて行くだけの季節である

その夜もいつも集まる狭いアパートの一室で、魑魅魍魎となった我々は蒸し暑さとやりきれぬ青臭い想いを腹にため込んで、車座に輪になり、嗚呼もう暑くて動けんよ、という体で、無軌道に酒を飲んでいたのだった

車座の中心には、得体の知れぬ何かと赤玉パンチを割ったスペシャルドリンクがドンと置かれている
氷などない
時に我々を遠くへいざなうこの魔法のドリンクの配合と割合は家主の裁量しだいなのだ

我々はこの狭い部屋の裸電球の下にあぐらをかき、頭に鉢巻きを巻き上半身は裸といういでたちで、ぐびぐび悪魔の酒を煽るのである

隣人は居るのか居ないのかわからぬような影の薄いやつで、この日もコトリとも物音はしない
にもかかわらず、我々はこの天国とも地獄とも区別のつかぬ秘密のアジトが在ることに感謝する事を忘れず、なるだけモメ事の起こらぬように細心の配慮だけは怠たらなかったのである

時をじっと待っていたかのようにSが黙飲を破った

おれは昨日の夜宇宙人を見た!
などと言い出したのである

普段からその私生活が奇行に飛んでるSゆえ、誰もそんなヨタ話など始めからとりあわず、そうかそうかと酒を煽りケムリを吹かすのであった

それに、奇行に飛んでいるのはなにもSだけではなかったし、宇宙人を見たなどというありふれた話なんぞ無敵の青春の嵐のさなかでは本当に陳腐な問題にすぎず、萌えるような躍動の中ではきわだてて耳を傾けるような話ではなかった

しかし、あまりにも苦しそうに、宇宙人を見た『ほんとうだ』と低くうなりだしたものだから

よし、友達として聴いてやろうじゃないか、その宇宙人の話を
なあみんな!

と、オレは友達らの賛同を得ようと酒を片手にぐるりと見回した

しかし悲しいかな、ふらふらとコップ酒を持った仲間たちはいっせいにオレの方を眺めて一様に面倒臭そうな顔をするのである


その時の状況からして
話くらい聴いてやろうよ、という博愛的な気持ちは失せてしまい、オレは何も言えぬまま酒を飲むしかなかった

キングクリムゾンのインストールメンタル的なワケの解らぬ曲が黒くてでかいラジカセから聞こえてくる
静かに、本当に静かに

そしてオレたちは黙して、ただ、酒を煽るのであった


今日、自宅近くにUFOが着陸せし其の痕跡を発見した
歩道に着陸したらしい

やはり宇宙人はいるのだ
そしてこの日本に飛来していたのだ

あの時、Sの話を聴かなかったオレを、そして皆の気分をエスに引き付ける行動力と勇気を持ち合わせなかったオレを

許せ。
今更ながら
あやまりたい


今夜の『この一冊』
松本清張
『昭和史発掘 2』
本文とは関係ないが、よく眠るために読むことにする

いい朝を

リュウスケ

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